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動産についての占有の移転、不動産についての登記の移転は要件ではありません。 債権について、債務者の同意は対抗要件の問題です。
動産については、占有の移転、不動産についての登記の移転は、同様に対抗要件の問題です。 権利移転の要件が充足しないかぎり、権利は移転しませんが、対抗要件が充足しない場合は、自分に権利が移転したことを当該権利に利害関係を有する第三者に対して主張することができません。
新設分割の場合は、移転する資産、移転する権利について、移転させる甲会社の株主総会での「分割計画書」についての議決承認によって移転の意思表示がなされており、吸収分割の場合は、「分割契約書」についての甲会社と乙会社の双方の株主総会での議決承認によって移転と吸収の意思表示がなされています。 したがって、権利移転要件はこれで充足しています。
しかし、対抗要件は充足していませんから、その手続きをとる必要があります。 債権の移転について、対抗要件は甲会社から債務者に対する通知または(債権の移転についての)債務者の承諾のいずれかになりますが、実際には会社分割では対抗要件の手続きをとる必要がある事例はごくわずかでしょう。
なぜなら、通常の債権の移転の場合とは違って、会社分割では営業が承継されますから、債務者の側で、債権の(営業を承継した乙会社に対する)移転について異議を唱えるだけの実益がある場合はまずありえず、一も二もなく異議がない場合がほとんどだからです。 物権のうち、動産について、対抗要件の取得が難しい問題となることもまず考えられません。

営業の承継にともなって、占有も移転するのがふつうだからです。 しかし、不動産の場合はそうはいきません。
甲会社による二重譲渡は大いにありうるからです。 当然、乙会社は甲会社から当該不動産について所有権移転の登記を取得すべきだということになります。
会社分割は営業の承継をともないますから、従業員も必ず分割されることになりそうです。 特に、会社分割制度の新設を導入した「商法改正」にともない、野党のリーダーシップで労働承継法(会社の分割にともなう労働契約の承継等に関する法律)が成立しましたから、営業の分割にともない従業員の分割が当然にともなうはずだと理解している向きがほとんどでしょう。
事実、労働承継法は、「会社が会社分割を利用して承継される営業から特定の従業員をひきはがすことを許さないぞ」という趣旨の法律だからです。 ここで、労働承継法の骨子を要約しておきましょう。
全文で8カ条という短い法律ですので、条文の引用はしません。 甲会社のなかに、A事業とB事業があるとしましょう。
いま、甲会社はB事業を会社分割によって設立する乙会社に承継させようとしているとします。 この場合、「甲会社の従業員で、B事業に従事していたbについて、bがいやだといわないかぎり乙会社に移籍させなければならない。
A事業に従事していたaについては、aがいやだというかぎり乙会社に移籍きせることはできない」というのが骨子です。 法律的にいえば、労働契約は会社にとって権利義務の一種ですから、どの権利義務は乙会社に承継し、どの権利義務は承継しないかを会社が一方的に選択できるはずです。
しかし、労働契約については、会社は当該従業員の意思に反するかぎり、選択できないということです。 ここで、移籍というのは、当該従業員との労働契約が乙会社に承継されることを指しています。
労働契約の承継ですから、甲会社との間で解雇が発生するわけではなく、労働契約は同一内容で乙会社に引き継がれていくわけで、退職金のキャッシュアウトは発生しません。 この意味では、会社にとっても都合のいい内容です。
従業員からみれば、会社分割によって会社が2つになっても、自己の意思に反して職を失う事態にならないという意味で従業員の雇用を守る法律でもあります。 とはいえ、会社分割によって、必ず従業員が分割されるわけではありません。
商法上の会社分割が有効に成立するためには、労働承継法上の従業員の承継(労働契約の承継)が必然的にともなわなければならないわけではないからです。 極端な例ですが、従業員の移籍(労働契約の承継=移籍)がまったくない会社分割もありえます。

従業員は全員、移籍などしないで出向すればいいからです。 移籍にはならず、出向であっても、税制適格要件の1つである従業員承継要件が充足できなくなるわけではありません。
会社分割のおもしろさの1つは、(野党の努力にもかかわらず)従業員の立場からみて、乙会社に移籍になるよりは、甲会社に残ったまま乙会社に出向扱いとなったほうが望ましい場合がありうることです。 特に新設分割の場合には、乙会社が安定的に継続できるかどうか、まるでわからない場合があるはずです。
そんなとき、従業員としては、乙会社の仕事はしたいが、身分の安定確保のため甲会社に残りたいとがんばるのではないでしょうか。 つまり、従業員は、会社分割にさいして移籍せよと会社に命ぜられても、拒否権をもっていることになります。
この意味で、従業員が保護されていることにはなります。 しかし、会社側からみて、この拒否権を無意味にし、労働承継法を潜脱することは簡単にできます。
B事業に従事している従業員を乙会社に移籍させることは、「分割計画書」のなかに記載しなければなりませんが、その「分割計画書」を株主総会にかける2週間前までに、当該従業員に対して、このような記載をしてある(または記載してない)ことを書面で通知しなければならないという規定になっています。 ですから、この2週間よりさらにその前に、この従業員に対して「A事業に移れ」という配置転換命令を出しておき、それからおもむろに「分割計画書」の作成にとりかかればいいのです。

現行法上、(出向命令ではない)配置転換命令は、当該従業員と職種限定合意が成立している場合は別として、会社側が一方的に出せるからです(最高裁判決昭和61。 7
14従業員地位確認請求事件参照)。 会社分割は、人を雇用する会社側にとっても従業員にとっても、大きな効能を発揮する場合があります。
そのなかでも劇的な効果を発揮するのは、債務超過に陥った会社が、その所有する全国各地に散在する営業所、支店を売却処分しようとする場合です。 たとえば、東京に本社があるホテル会社が、沖縄から北海道まで10カ所でホテルを経営しており、それらを全部、第三者に売却処分しようとする事例です。
従来、このような処分は、不動産の処分と考えられてきました。 生きている営業体をバラバラに解体して、物理的な土地とコンクリートの固まりを売却するという発想です。
おそらく買主は、買い取ったあと、やはりホテルを経営するのでしょう。 そうだとすれば、宿泊予約の引き継ぎ、買掛金の引き継ぎ、商品棚卸、有体動産の引き継ぎ、温泉湯口権の引き継ぎなど、膨大な引き継ぎ事務を必要とし、そのうえ登録免許税が固定資産評価額の1000分の50、不動産取得税が100分の4かかり、コストがかかって無駄が発生します。
最大の問題は、従業員を解雇し、退職金を支払い、買主は新たに従業員を雇用しなければならない点にあります。 買主としては、仕事の内容をまったく知らない従業員を新たに雇い入れるより、いまのままいてもらうほうが望ましいでしょうから、売主が解雇した従業員を探し出してまた新たに雇うなどというのは、なんとも無駄な話です。

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